3457090 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

三人寄れば文殊の知恵

三人寄れば文殊の知恵

坊主でも葬儀は大変

先日、近隣の某老僧から電話が入りました。

「Tさんが亡くなったと息子から電話があったんやけど」

「えっ、Tさん?Tさんは元気だったんでは?」

10日ぐらい前には、Tさんのお寺で法要がありましたので
あまりにも突然のことに驚きました。

早速Tさんのお寺に近隣寺院が集まることになりました。

Tさんの息子さんは、落ち込んでいますが比較的平穏な状態
ですので、取り急ぎ葬儀の段取りを話し始めました。

坊主の葬儀その1 導師の選任

一般の方の葬儀では、檀那寺があれば、檀那寺に、そうでないときは
葬儀社に依頼すれば(あまりお勧めでは無い)葬儀の法要の段取りを
決めてくれますので、特別の希望がない限り、問題は無いのですが
僧侶の場合には、まず、だれに導師をお願いするかから
決めなければなりません。

T息「近隣寺院に導師をお願いするわけにはいかんでしょうか」

三文「それはダメでしょう。お父さんの場合には大きい葬儀になるし
誰かに頼んでほしいとか言われていませんか?」

T息「聞いていないです」

三文「高野山のHさんとか、元宗務総長のKさんとかどうですか」

T息「Hさんとは親しかったし、Kさんは後輩ということで・・・」

三文「まあ、遠くから来ていただくので、日程があるかどうか・・」

老僧「そんなのはあかん。管長か今の宗務総長に来てもらわんと」

老僧2「そらそうや。別格本山なんやから」

三人文殊の提案はいきなり却下(ーー;)

三文「とりあえず葬儀の日程を決めましょうよ」

坊主の葬儀その2 葬儀の日程の決定

一般の葬儀では、特段の事情がない限り、できるだけ早く葬儀を
行い火葬します。未明に亡くなられた場合など
当日通夜、翌日本葬ということもありますが、僧侶の葬式となると
法要に参加してもらう導師と僧侶の日程から調整に入りますので
とりあえず密葬を行い、本葬は後日ということも少なくありません。

老僧2「ここは二回に分けてしたほうが良いのでは」

老僧3「二回もできんわな」

三文「先代は二回に分けたそうですが、日程を見ながら
考えるべきでは?」

老僧2「やはり二回に分けて、本葬は35日とか14日とか
にしたほうが」

老僧3「二回もできんわ。T息そうやろ」

決まらんやないか(ーー;)

とりあえずTさんの息子さんの予定を聞いてみると、3日後は
都合がよいというので、その日程で来ていただける導師様を
探すことになり、本山から管長さんに来ていただくことに
なりました。

坊主の葬儀その3 葬儀の時間の決定

一般の葬儀では火葬場と僧侶の都合で、3つぐらいまで
希望を出し、特別な事情がない限り、その時間に行うのが
普通です。

三文「葬儀は出棺が13時半として、12時からですか」

一同「それはあかん、予定もあるし」

三文「では葬儀は13時からにして、出棺が14時半では」

老僧2「やはり葬儀時間は2時間取らんと」

三文「では葬儀は13時からで、出棺が15時でいいですか
市火葬場は間に合わないので西火葬場で行きましょう」

老僧2「西火葬場はいかん。Tさんは市火葬場でないと」

三文「解りました。では葬儀は11時半からで、
出棺は13時半でいいですか」

一同「それは間に合わんというとるやろ」

決まらんやないか(ーー;)

老僧「まあまあ、12時からということで、3日あるし
みんな調整してもらって、12時開式、13時半出棺
ということで」

やっと時間が決まった。
葬祭業者にその話を伝えると

「火葬場がもう閉まっていますので、時間が取れるかどうか解りません」

おいおい頼むよ。先が思いやられる(ーー;)

やっと葬儀の時間が決まったかと思ったら、翌朝待ちとは(ーー;)

気を取り直して先へ進む。

坊主の葬儀その4 次第の決定

一般の葬儀と異なり、僧侶の葬儀の場合には、複数の僧侶の法要と
なりますのでどんなに法要にするか考えなければなりません。
その葬儀の次第を決める必要があります。

老僧「葬儀の次第は少し前のS寺のままで配役変えたらいいな」

一同納得して珍しく簡単に決まった

坊主の葬儀その5 配役の決定

次第に基づいて、誰が法要でどんな役を担当するか。
決める必要があります。

老僧「配役も大体S寺のままで少し変えたらいいな」

一同納得して同じく簡単に決まった?と思われたが
落とし穴がありました。

老僧「会奉行(法要を取り仕切る役)は三人文殊でいいな」

三文「無理です」

管長に来ていただくのに、職衆(法要でメインに拝む人たち)の私が
兼任で会奉行など無理(ーー;)

三文「隣の組のHさんはいかがでしょう」

一同「Hさんならいいかもしれんな」

おっここで私は三人文殊寺へ帰る時間です。

「すいません。ちょっと所用を済ませてきます」

と中座する。

約40分後、その後どうなったか連絡します。

I僧正「もう終わったよ」

三文「えっもう終わったんですか?H僧正(会奉行)への連絡は?」

I僧正「連絡しといて」

三文「部屋割は?」

I僧正「そこまで行ってないけど」

坊主の葬儀その6 部屋割り

一般の葬儀は会館が多いので部屋割は葬儀社にお任せですが、
自宅でする場合は通夜・葬儀共に同じところで行います。
ところが、僧侶の葬式の場合にはお寺で行い、葬儀は本堂で
通夜は別の部屋で、問題になるのは部屋割り。

親族の座る位置、職衆の座る場所と席順
隋喜寺院(会葬の僧侶)の座る位置、親族の控室
職衆の会所(控室)隋喜寺院の会所(控室)
通夜と本葬に分けてこの部屋割を決めなければなりません。
今回は管長さんが来られますので、その控室も必要(ーー;)

これらを決めておいて、会奉行さんと職衆の行列の順番
入り方などを格好良く考えなければいけません。

会奉行さんと打ち合わせできる段階ではない(ーー;)

まあ、3日ある。とりあえず明日にしよう。

ところが、地方の取りまとめ寺院から電話がかかってきた。

「三人文殊さん、T僧正亡くなられたんですか?」

「そうです、何か?」

「こっちには連絡ないんですけど。
遷化されたらすぐに連絡貰わないと手続きできませんよ」

「えっ?えっ?連絡行ってないんですか?」

「葬儀の時間とか決まっているんでしょ」

「いや、あの~確認します」

I僧正からも電話がかかってきた

I僧正「三人文殊さん本山から地方の取りまとめ寺院に
連絡行ってないって言うて来たぞ」

三文「そうなんですよ。地方の代表のR僧正は行けないから
弔辞もできないって言うてますよ」

I僧正「それはマズイ、Rさんの弔辞予定で次第作ったけど」

三文「いや無理って言うてます」

なんかチグハグになってます(ーー;)

もう暗くなってますが、急いでT僧正のお寺へ向かいます。

取りまとめ寺院に電話します。

「三人文殊です。今確認しました
12時開式、13時半出棺(仮)です。」

「えっ?(仮)正式に決まってないんですか?」

「明日、火葬時間が取れたらということです」

「もう、かなり連絡し終わってますよ」

まずいが止むを得ない。

次々に関係先へ連絡していく。

そこでT息と大体の部屋割りを決めて、
帰途に着いたのは午後9時近く。

ほっとしてI僧正に電話します

三文「関係連絡先は全部電話しました。R僧正にも弔辞
お願いしました。部屋割も大体決めました」

I僧正「ところで通夜は16畳の部屋でするって言ってたけど
どうなった?葬儀屋は頭抱えていたけど」

三文「えっ?そんな話聞いてないですけど」

T僧正の親族が30人余、近隣寺院が10人余り、隋喜寺院が
30人は想定しておかないと。

通夜を16畳の部屋で70人も入れるはずがない(ーー;)

一難去ってまた一難(ーー;)

再び坊主の葬儀その6 部屋割り

喪主のT息さんとT僧正の奥さんはゆっくり休むというわけには
いかなかったでしょうが、体調万全?の三人文殊は翌朝9時ごろ
T僧正のお寺へ向かいます。

おっ、昨日に比べると二人とも元気だ。

寺務所で葬儀屋さんと打ち合わせをしています。

やはり、昨日のお通夜の件。

葬儀屋さんは16畳では無理という判断。

ところが、奥さんの話によると先代もその16畳で
通夜をしたという。
葬儀まではどうしてもその部屋で過ごさせたいらしい。

葬儀屋さんの提案は通夜の前まで16畳で寝かせて
直前に50畳近くある方丈へ移して通夜をし終わったら
また元へ戻すというもの。

横から口を出すようだが、

「私もこっちで拝んだほうが・・・」

と支持する。

奥さんが同意して、一軒落着(*^_^*)

と思われたが、この選択が恐ろしい事態を引き起こすとは
誰も想像できなかった(ーー;)

坊主の葬儀その7 駐車場の確保

今どきの葬儀では駐車場がないと話にならない。
特に地方ではそうだ。
その束縛からは寺院といえども逃れられない。

T息に葬儀の際の駐車場を確認すると、

「お寺の表に僧侶、裏に一般の車を入れます」

両方で100台以上は入るだろう。

T息も平常通りに戻ってきた?

さて、方丈の部屋の大きさを確認して通夜と本葬の
大体の部屋割りを決めて、お寺を後にして
近隣寺院の法要へと向かいます。

近隣寺院での法要は休日とあって、少し人数が少ないが
法要終了後にT僧正の葬儀の打ち合わせに入ります。

本葬は本堂、通夜は方丈
通夜・本葬ともに近隣寺院控室は16畳
本葬の管長の控え室はその隣の10畳
通夜・本葬ともに会葬の寺院控室は方丈
本葬・通夜の管長・近隣寺院の入り方・控室本堂での
座る場所も決まった(*^_^*)

これにて一件落着ヽ(^o^)丿

後はまとめたものをパソコンで清書してもらい、法要を取り仕切る
会奉行さんと打ち合わせしたらおしまい(*^_^*)

お葬式ですから、そんなに喜んではいけませんけど
スムーズに進んだな(*^_^*)

まとめたものを持って、T僧正のお寺へ向かうと、ちょうどお通夜の
ための下準備をしているところ。

それをT息に見せて説明すると

「これ無理ですけど」

「えっ?」

方丈のふすまを全部取っ払う前提での部屋割りなんですが、
多分取れないという(@_@)

「三人文殊さんふすま外す方法ありますかね?」

「ジャッキで上げるとか?・・・はちょっと怖いな」

「それに一番奥には大きい机があって移動するの大変なんですよ」

「う~ん」

「それに、この通夜の寝かせ方では一般会葬者がお参りできません」

本葬はともかく、通夜は全部計画練り直し(ーー;)

各なる上は、こうだ。

通夜の近隣寺院の控室は方丈の机のある部屋。
通夜の会葬寺院の控室は16畳
通夜の近隣寺院の入り方と座る位置も変える。

近隣寺院と会葬寺院の控室が通夜と本葬で逆転するが止むを得ん。

「三人文殊さん変えて大丈夫ですかね?」

「近隣寺院には直前に伝えれば大丈夫・・・と思う」

早速、帰って部屋割りと入り方をまとめて、PCでの清書をI僧正に
依頼に向かう。

制作するのは次の4つ

1 通夜の部屋割り
2 本葬の次第
3 本葬の部屋割り
4 本葬の控室の座る場所と本堂への入り方、本堂の座る場所。

三文「I僧正、変更点がありました。これで清書お願いします」

I僧「まあ、変更点は良いとして、本葬の本堂の入り方が問題では」

三文「どこが問題です?」

I僧「管長さんは、本山では一番後ろに入るけど、この列では真ん中
というのは問題では?」

三文「それは無理ですよ、そういう本堂の構造ではないでしょう」

I僧「一番後ろに管長さんが進む方法で考えたら」

三文「それは無理、複雑になって間違える可能性があるし、何人か
避けて管長さんに入っていただくことになりますよ。」

I僧「三文さんの案で管長さんが一番後に進んだら?」

三文「それも何人か避けて管長さんに入っていただくことになるし
そんな入り方無いですよ」

I僧「しかし管長さんは本山では一番後ろを進むけどなあ」

三文「ではその問題は明日老僧に相談しましょう」

I僧「ところで、管長さんが来られるのなら、披露の文が
いるのでは?」

「披露の文」とは、この法要は~配役は~入り方は~という
法要に参加する僧が揃った前で会奉行さんが法要の説明を
独特の言い回しで伝える文章のこと。

聞いたことは何度かありますが、作ったことなど無い(ーー;)

三文「私は作れないですよ」

I僧「会奉行さんに頼んでみたら」

さっそく電話するが、会奉行さんも作れないという(ーー;)

だんだん暗雲が立ち込めてきた(ーー;)

さて、通夜の朝がやってきました。

I僧正の所から通夜の部屋割りと本葬の次第、本葬の部屋割りの清書を
受け取ります。

I僧「披露の文章を作ってみたけど」

三文「おお~有難うございます」

I僧「ただ、私の知っている文章なので、そのまま今回の法要には
使えないけど」

三文「大丈夫です。直します」

清書をT僧正のお寺に届け、少し打ち合わせを行い、
コピーを依頼します。
戻ってきて法事に出かけ、休んでいるとお昼ごろI僧正から
電話が入ります。

「ごめん、通夜の部屋割の清書間違えた」

「え~」

「T僧正のお寺に電話しといて」

急いで、電話します。

「すいません。三人文殊です。通夜の部屋割りコピーされましたか」

「大丈夫です。御心配なく、もう出来上がっていますよ」

「大変申し訳ございません。間違えました」

「・・・」

「直していただけますか」

「・・・わかりました・・・」

午後からは会奉行さんと打ち合わせ。
会奉行さんもお葬式から帰ったばかりで、法服のままで
打ち合わせします。

肝心な所はもし会葬の僧侶が30人を超えるようならば、
本堂に入れないで方丈で読経していただくよう止めていただきたい。

三「この点はよろしくお願いいいたします」

会「わかりました」

三「ところで、まだ、本葬の入堂が決まってないんですが」

会「え?」

三「本山が切り込み入堂でしてほしいって言うんですよ」

会「それは無理でしょう」

三「私もそういったんですけどね・・・」

会奉行さんとの打ち合わせを終えて、三人文殊寺の工事の状況を
確認して、T僧正のお寺へ向かいます。

時は4時20分。お通夜まであと1時間40分。

山門横にバイクを止めると既にその前を歩いている僧侶発見(@_@)

「よかったら、入ってお待ちください」

「いえいえ、もう少し外にいます」

山門をくぐって境内に入ると葬儀屋さんが
あわただしく準備しています。

ちょっと遅くないか???

葬儀屋さんにお疲れ様ですと声をかけながら玄関へ入り、
会葬の寺院の控室を覗くと驚くべき光景が・・・

まだ棺が置いてある(@_@)

えっえっえっ?

通夜の会場の方丈は・・・案の定何も準備していない(@_@)
しかも、近隣寺院が控室から通夜会場に入る予定の襖が
白い布でふさがれて通れんではないか。

急いでT息と捕まえて

三文「まだ棺がそのままで、通夜の会場ができてないぞ」

T息「5時に移動するそうです」

三文「え~それは遅すぎるのでは、それに控室の出口がふさがれている」

T息「えっそうですか」

三文「これでは入れんな」

T息「廊下を回ったらどうです?」

三文「荷物があるけど」

T息「それは除けます、それにH僧正に誘導してもらえばいいのでは
H僧正に伝えておきます」

三文「それしかないですね」

そうしているうちに葬儀屋さんがやってきて

「生花はどこへ並べましょう」

「いくつあります?」

「50はありますね。どんどん増えています」

そんなに本堂へ入らない(ーー;)

取り急ぎ本堂へ向かいます。

葬「本堂へは三対ぐらいしか入らないですがどれを入れたらですか」

三「いきなりそんなこと言われても~、それに本尊脇に
生花をおいてはいかん」

葬「何でです」

三「ここは会奉行さんが通るようにしてもらわないと」

会奉行さんには法要の間に焼香の案内、弔辞の案内、
会葬の僧侶を案内するなど細々とした法要の仕切りを
お願いするので本堂内を動けるよう動線は
確保しなければいけない。

葬「棺もここに置きますから本尊前は通れないですよ」

三「えっ、それは困る」

葬「本尊裏を通るのはどうですかね」

三「親族や会葬の僧侶がいるので通れないでしょう」

葬「それは通れるようにしておきます」

しかし、この約束は実行されず戦慄することになる。

さて、ちょうど近隣寺院のS僧正を見つけたので、
花の問題はS僧正にお任せして庫裏へ戻ります。

時は4時50分。お通夜まであと1時間10分。

さて、庫裏に戻り、僧侶の受付の準備に入ります。

僧侶の会葬返礼を受け取って表に回ると、受付役の僧侶が
既に来ていましたので、会葬返礼についての注意を伝えて
庫裏へ戻り、今度は会葬の僧侶の控室へ向かいます。

そこにはまた、驚くべき光景が広がっていました。

お棺が置いてあった下の敷物とお供えをそのままに、
そこを避けて座布団を並べようとしている葬儀屋。
既に座っている僧侶の姿も見えます。

「ちょっとちょっと、これは片づけて下さい」

と言いながら敷物を脇へ置く。

「いえ、またお棺が戻ってきますので・・・」

と言い訳する葬儀屋。

しかし、葬儀屋さんも人が少ないな。お供えは通夜会場へ
持っていくのだが人がいない。

T僧正寺院の総代世話人が座っているところへ行き

「すいません、手伝ってください」

総代世話人を勝手に使ってお供えを通夜会場に移動する。
人使いの荒い坊主だと思われているだろうな。

通夜会場の方丈ではまだ座布団も並べられていない(ーー;)

「こっちか親族で、こっちが会葬僧侶、ここに通路を作って、
ここが近隣寺院」

と座布団の並べ方を伝えて、近隣寺院の控え室に向かい
通夜の入り方と座り順が変わったことを伝えて
会葬の僧侶の状況を確認に行きます。

時は5時15分。お通夜まであと45分。

既に結構会葬の僧侶が来られています。

が、明日管長さんが部屋はできるだけ使わないで欲しいと
伝えておいたのに開けて座布団が並べられ、既に座っている人が!

ここで表へ出て僧侶受付の状況を確認します。
会葬返礼が足るかどうかを確認して、通夜会場へ戻ります。

葬儀屋さんが座布団を廊下まで並べていますので、
そこまで並べたら会葬の僧侶が入れなくなるのと伝えると

「親族の方が増えましたので・・・」

「・・・」

近隣寺院の控室に行き

「通夜会場できてないんで手伝ってください」

「座布団運びまでさせられる」

「いやいや座布団運びではなく、葬儀屋さんに指示してください」

時は5時30分。お通夜まであと30分。

T息が「私は何をしましょう」

「会葬の僧侶の方に挨拶に行かんと」

会葬の僧侶の控室へ連れて行って挨拶するよう促します。

通夜会場へ戻ると会場がまだできていません。

「親族の座布団並べる場所がないんですよ。
三文さんどうしたら良いですかね?」

「・・・・」

「会葬の僧侶の後ろの廊下に親族入れて良いですかね」

「それでは、近隣寺院が入れない。会葬の僧侶の座布団を
二列減らして親族を増やしましょう」

「えっ、会葬の僧侶が入れなくなるかもしれませんよ」

「多くなったら詰めてもらおう、遅く来た人は 廊下に
座ってもらう」

「それはまずいのでは?」

「想定より会葬の僧侶は少ないみたいですし、通夜ですから
仕方ない。文句が出たら私が指示したことにしといてください」

時は5時45分。お通夜まであと15分。

近隣寺院の控室に戻ると、皆さん既に着替えはじめています。

「皆さん早いですね」

「もう時間だよ、ところで近隣寺院を誘導するH僧正は?」

「あら?来てないですね、何してるんだろう?呼んできます」

表の受付に行くと受付しているH僧正が

「H僧正、もうそろそろ時間ですよ」

「えっ、なんの話です?」

「通夜の誘導お願いしていたと思うんですけど」

「えっ、聞いていないです」

「とりあえず、お願いできますか?」

「わかりました」

危ないところであった(ーー;)

何とか通夜までこぎ着けた。

薄氷を踏むような危うさながら、何とか通夜も終了。

しかし、通夜が終わってもすぐには帰れない。
近隣寺院と一緒に葬儀屋さんと明日の打ち合わせです。

葬「次第にはT大和尚本葬と檀信徒葬が入ってないですが、新聞広告には
檀信徒葬と入っているんですが、読み上げはどうしましょう?

老僧「檀信徒葬なんていらんやろ」

三文「私もそう思いますね」

葬「なんか言われたらどうしましょう?」

老僧「三人文殊が面倒やからそうしたって言えば」

三文「まっ、まあ、良いですけど」

葬「わかりました」

わかってもらっても困るんですけど(ーー;)

三文「ところで、最初の入堂着座の後に、大僧正の任命式
しますんで入れといてください」

葬「そうですか」

三文「1分ぐらいで良いですよねI僧正」

I僧「いや、3分から5分ぐらい・・・」

三文「それは長いでしょう」

老僧2「そんなんやるんかい、聞いたことないぞ」

老僧「そんなの誰が言うた」

三文「I僧正ですけど・・・」

I 僧「いや、私は・・・」

老僧「そんなのせんならんのか」

老僧2「大僧正の辞令置いといたら済むやろ」

三文「でも、総長に言われたんですよね・・・」

I僧「いや、まあ、総長にそう伝えときます」

ちょっと厄介な大僧正任命式もパス(*^_^*)

葬「お焼香は弔辞から入らしてもらっていいですか」

老僧「それはあかん、お経に入ってから」

葬「外の一般会葬者の話です」

老僧「外は任せるわ」

葬「一般のお焼香が終わらなかったらどうします」

三文「出棺時間が決まっていますので、お経は時間通りで
打ち切りますので後は適当にお願いします」

葬「わかりました」

これも打ち合わせ通りには履行されなかった。

葬儀屋さんとの打ち合わせも終わり、今度は近隣寺院との
打ち合わせ。

三文「入堂の方法なんですが、押し回しの変形で
行きたいんですが・・・」

老僧「それで良いやろ」

三文「本山では切り込みでないと行けないようなんですが」

老僧「それは構わんやろ」

ここで近隣寺院は解散

棺は元の16畳に戻され、親族はご飯を食べている隣の部屋で
T息と打ち合わせ。

三文「明日の出棺時の挨拶文なんですけど」

T息「三文さんの原稿読ませていただいたんですが、
『重ね重ね』は取ったほうが良いですし、ここは『が』
で繋いだほうが良いんですが・・・」

三文「それは別に構わないですけど・・・」

しばし、打ち合わせして食事を用意していただくが、遠慮して
帰り「披露の文」と「挨拶文」作成しました。

T息をはじめ親族もお疲れですが、こっちも疲れてきた。

さて、ついに本葬の朝がやってきました。

9時前にT僧正寺へ向かい、手札(各寺院の名前を書いた札)
披露の文、近隣寺院の控え室・入堂・本堂での座り位置を届け
状況を確認します。

T息は忙しそうですが、T息に聞いて弔電を「本文を読むもの」
「名前だけ読み上げるもの」「花入れの時に名前だけ読み上げるもの」
の三つに分けます。

そして本堂へ向かい状況を確認します。

本堂には信じがたい光景が(@_@)

1 壇上のお祀りができていない(@_@)

一人で行ったら30分以上かかるだろうが、お葬式開始まで
あと3時間ない(ーー;)

2 弔辞を読む来賓の座る予定場所にカメラが置かれている

これでは来賓が座れないではないか(ーー;)
来賓は弔辞を読むマイクに一番近い位置の前に並んでいただくよう
計画しているのだが、無情にもその場所に外の会葬者に堂内の様子を
映すカメラが置かれているのだ。

「ちょっとこのカメラの位置変えてくれませんかね?」

「いや、この場所でないと、天井からの吊り物で法要の様子が
映らないんですよ」

困ったな(ーー;)仕方ない、来賓の方には申し訳ないが、
カメラの後ろに座っていただこう。

本堂から戻って、T息に壇上のお祀りができていないことを
伝えると

「H僧正にお願いしているんですが、まだ来られてないんですよ」

「まずい、では近隣寺院にお願いしよう」

とはいうものの、そんな余裕があるかどうか?
気休めにしかならない(ーー;)

10時前に三人文殊寺に戻って、工事業者に御茶を出す。

それから着替えて出発だ。

10時半頃、到着すると既に受付のお手伝いの僧侶が
来ています。

「会葬返礼は用意できていますか?」

「まだです。」

会葬返礼を庫裏へ受け取りに行き、手伝いの僧侶に渡して
注意事項を説明する。

その時、近隣寺院の老僧登場。

三「早いですね」

老「管長がもうそろそろ到着される」

三「え~11時過ぎにお願いしたのでは?」

実はもともと管長さんは10時半頃到着されるという予定
でしたが、それでは10時ごろのお迎えになるので、
11時過ぎに来ていただくようお願いしたはずなのだが・・・

まずい、近隣寺院がお迎えするはずなのだが、
まだ揃っていない(ーー;)

三「まだ、近隣寺院が揃ってないですが・・・」

老「それは仕方ないな」

ちょっと、控室の状況を見て来ようとすると、

「うろうろするな」

と老僧に叱られる(ーー;)

近隣寺院4人で管長さんをお迎えして、控室までお送りする。

三「これで私は失礼します」

老「ちょっと待て、管長さんに紹介する」

なんとなく居心地が・・・

老「これが近隣寺院の三人文殊です」

三「三人文殊寺の三人文殊と・・・・」

語尾がだんだん小さくなって聞こえない(ーー;)
こういう挨拶は不得意なのだ(ーー;)

管長さんには何度か御目にかかっているのですが、
うまく挨拶できませんね。

こういう時、近隣寺院のY僧正などは、初対面にもかかわらず
後からやってきて堂々と

「○○寺のYと申します。本日は御忙しい中、わざわざ遠方まで
足を運んでいただき有難うございます」

というような挨拶をするのは感心します。

さて、管長さんから解放されると、葬儀屋さんが弔電を抱えています。

「弔電の打ち合わせは後でしますから少し待っていてください」

本堂に向かい、座る場所に手札を並べますが、一枚足りない(ーー;)

マズイ、では急いで作らないと・・・と思ったら、

「手札が一枚落ちていました」

よかった(*^_^*)

庫裏へ戻って弔電の打ち合わせをしようとすると、
本堂の準備をしているH僧正に声をかけられます。

「三人文殊さん、お供えの花が足りないんですが、できる分で
いいですかね」

「まあ、それで・・・」

さて、弔電の打ち合わせをしましょうかね。
と思ったらI僧正に声を掛けられる

I「三人文殊さん、受付に指示してないんやけどどうなってる」

三「いえいえ、ちゃんと伝えています」

I「指示受けてないって言ってきているぞ」

三「受付に伝えた通りしてもらったら大丈夫です」

実はこんな事情がある。

近隣寺院 会葬返礼は葬儀後
それ以外の会葬寺院 受付で会葬返礼を渡す

こういう指示を出していたのだが、近隣寺院と同様に
本堂正面で拝む寺院があるので、その寺院の対応を考えたらしい。

その寺院については、受付で会葬返礼を渡して、かつ
葬儀後は別に返礼を渡すということをT息と話していたのだが
そのことをI僧正は御存じないので、気をまわされています。
ただ、説明する時間がもったいない。

三「I僧正とりあえず、後で説明しますので、近隣寺院の
座る位置と本堂への入り方を詰めといてもらえますか」

三「弔電の打ち合わせは後でしますから少し待っていてください」

と葬儀屋さんに伝え、控え室に行くと、次第を近隣寺院が既に
各自持って行っています。

三「ちょっと説明する前に持っていかないで下さいよ。
I僧正あとはお願いします」

さて、弔電の打ち合わせをしないと。

T息「三人文殊さん、葬儀用の白い衣の着方御存知ですか」

えっ今頃?本葬まであと一時間しかないんですけど

ただ、この衣は高野山では行に使うのですが、京都では使わない
様ですから、京都で行をした着かたをT息は知らないし、
忙しいから尋ねる時間もなかったのでしょう。

3年程前にお葬式をされたS僧正に着せてもらうよう依頼する。

やっと弔電の打ち合わせです。その間、葬儀屋さんは弔電を
抱えたまま。しかも、この方が葬儀社の総責任者なのです。
葬儀の準備が止まってしまった(ーー;)

ようやくのことで葬儀屋さんに弔電の読み上げについて
お伝えしたところですが、一安心したのもつかの間

「三人文殊さん僧侶の受け付けで配る次第がありません」

「心配することは無い、ありますよ」

近隣寺院の控室に余りの次第があるはずだ。

三「次第の余りどこにあります」

「そんなの無い」

三「無いわけないでしょう50枚ぐらい余るはずですよ」

機転の利く方が、「コピーしてきます」と走ってくれた。

そこで会奉行さんが来られました。

三「本日は御忙しいところすいません。
早速ですが打ち合わせさせていただきます」

さて、披露の文はどこに?

三「披露の文どこにあります?」

「I僧正が持っていかれましたが・・・」

三「えっ・・・」

会「大丈夫です、私FAXで送っていただいたのを持っていますから」

三「すいません、手際が悪くて」

会奉行さんと打ち合わせします。

1 全員が揃ったら披露の文を読んでいただくこと

2 控室から本堂まで列の先頭で案内いただくこと

3 お焼香の案内をしていただくこと

4 会葬の僧侶が増えたら、本堂へ入れない人は方丈で止めて
拝んでいただくこと

5 帰りも列の先頭で案内いただくこと

これで完璧だ。

そうしているうちに、どんどん会葬の僧侶が来られますが、
会葬の僧侶の控室が通夜と違っていることで、近隣寺院の
控室へ来られようとする方続出。

そのたびに、こちらですと案内する。

さて、白い衣を着たT息を連れて、会葬の寺院に挨拶に向かう。

戻ると既に近隣寺院の皆さんは着替え始めていますので
私もあわただしく着替えます。

管長さんが控室から出られ、会奉行さんが披露の文を読まれ
さて、本葬です。

会奉行さんを先頭に列を組んで歩いているとき、
ふと忘れていたことが(ーー;)

「すいません、会奉行さん、本尊様の前は通れません、
本堂の裏を通って下さい」

と伝えるが伝わったかどうか???

本堂へ入った瞬間凍り付いた(@_@)

親族も会葬の僧侶も目一杯に入っていて、会奉行さんの
通り道が開けてない(ーー;)

これでは通れんではないか。

祈るような気持ちで、思った。
会奉行さん何とかしてくれ。

法要が始まるが、お焼香の香炉の置き位置も
打ち合わせと違う(ーー;)

法嗣焼香をするのにT息の前に香炉が無いので取り寄せる。

T息の後は正面で拝んでいる僧侶が左右に別々にお焼香を回して
そのあと、それぞれの香炉を親族・会葬寺院に回すのだが、
葬儀屋さんが勝手に親族へ回そうとするので止める。

この辺りは会奉行さんにお願いしていたのだが、会奉行さんも
そこまで回らない(ーー;)

親族・会葬の僧侶のお焼香も問題なくお経の間に終わり、
本葬も終わりに差し掛かったその時、葬儀屋さんが老僧に何か
ささやいている。

何か問題が起こったのか?
気になるが座っている位置が少し離れているので
聞くわけにもいかない。

すると、奇妙なことが起こった。

七返で終わるはずの真言が延々と続いている(@_@)

老僧、早く鐘を!

近隣寺院・会葬寺院の視線を一身に集める老僧。

その注目を無視するかの如く、延々と真言を続けられます。

しばらくして、鐘木を取られやっと鐘がと思ったら、
次の真言も延々と続きます。

永遠に続く様なこの時間、まだ終わらないんですかね?
まさに、地獄の一日のよう。

まずいです。出棺時間が過ぎてしまいます。

足も痺れてきた(ーー;)

もう限界と思ったその時、ようやくお経が終わりました。

会奉行さんの先導で控室に戻りますが、その途中の廊下で
外を見ると、山門から本堂まで50メートルはある境内が
人で埋まっています。

「おお~人がいっぱいおる」

と声を出してしまいました(ーー;)

控室での話では、お経が終わりかけた時点でお焼香が済んでいない
会葬者が150人いるという連絡が老僧に入りお経を延ばしたと
話されていました。

う~ん、1時間半の葬儀で早くからお焼香をしていたのに
終わらなかったのか。

さて、素早く着替えて、本堂へ花入れに向かいますが、
もうほとんど終わっています。

早い、早すぎる。

出棺の儀式も滞りなく終わり、出棺しますが・・・
かなり遅れています。
火葬時間に間に合うのか???

こういうことがあるから、お焼香を途中で打ち切る策を
立てていたのに・・・

実は市の火葬場は数年前から厳しくなって間に合わないと
火葬しないという噂が。

そのため葬儀屋さんは火葬時間の30分前に出棺するように
なっていますし、遅れそうになった霊柩車が猛スピードで
走ったため伴車がついていけなかったという話も聞きました。

心配していたんですが、結局、火葬場には10分遅れで
到着して、何とか火葬できました。

疲れました(ーー;)

翌日は体が強張って起きるのが大変でした(ーー;)


© Rakuten Group, Inc.